「失敗経験をさせない」という意味

「成功体験を積み重ねる」
「失敗体験をさせない」
は、今や自閉症支援の常識となっています。
でも、この言葉を知っていて実践している支援者の中にも、その理由をよく理解していない人もいます。

よくある誤解が「成功させる=良い教育」という視点です。
 「失敗ばかりしていると、本人が傷ついてしまう。やる気もなくなるし、苦手意識だって持ってしまう。だから、その活動が楽しいと感じて、やる気を持って学習してもらうために、レベルを調節して成功体験を積み重ねるようにしていこう」

そして、もう一つの誤解が「自閉症=失敗が多い」という視点です。
「自閉症の人は、人間関係でトラブルを起こすことが多く、コミュニケーションも苦手だし、変化にも弱い。だから、どうしても失敗することが多いから、なるべく失敗させないように教育していこう」

人は誰でも失敗をします。
それは自閉症の人でも、定型発達の人でも同じです。
圧倒的に自閉症の人の方が、定型発達の人よりも失敗をしている、とは言い切れないと思います。
むしろ自閉症の人の中には、周囲から見たら失敗しているように見えることも、自分では気が付いていないこともあると思います。
では、なぜ「成功体験を積み重ねる」「失敗経験をさせない」ということが、自閉症支援の常識となっているのでしょうか。
それは自閉症の人たちの持つ"記憶の特性"が関係しています。

自閉症の人たちは記憶力が優れていると言われています。
また、"忘れられないことが障害"という人もいます。
つまり、自閉症の人たちは記憶が大変優れているため、過去のことも鮮明に、しっかりと覚えている場合が多くあります。

私たち定型発達の人なら、"忘れる"ということを通して、過去の嫌なこと、失敗を記憶の外に追いやることができます。
だから、同じ失敗を繰り返す(笑)
でも、自閉症の人たちは"忘れる"ことができないため、過去の嫌なこと、失敗を現在進行形で向き合っている場合があります。
そんな状態ですと、ずっと「自分は失敗ばかりしている」「自分はダメな人間だ」というように、マイナスな感情ばかりが溢れてしまい、どうしても自己肯定感が乏しくなってしまいます。

自閉症の人でも、定型発達の人でも、失敗する回数に大差はない。
でも、忘れることができない自閉症の人たちは、その失敗1つ1つが大きな意味を持ち、いつまで経っても辛い思いをしてしまう。
このような特性がありますので、なるべく失敗経験をさせずに、成功体験を積み重ねましょう、ということになっています。
ですから、本人の側にいて、正しい行動を導き、教えられる支援者が、小さいときから必要なのです。

*ちなみに、過去の経験を客観的に分析し、今後の行動に活かしていこう、というようなことが苦手という実行機能の特性との関係からも上記のように述べられます。

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