一年経たずに退職した若者たち

昨年の4月に特別支援学校の高等部を卒業し、一般就労した生徒約25名が、一年経たずにみんな退職しているとのこと。
これはこの地域の話だが、かなり衝撃的な事実。

この小さな地域で約25名の生徒たちを一般就労させ、地域に送りだした特別支援教育は素晴らしいと思います。
でも、学校は就労がゴールかもしれないが、生徒にとっては就労は始まりに過ぎません。
学校生活よりも、その後の人生の方がはるかに長い。
それなのに、一年も経たずに退職というのは・・・。

では、どうしてこのような事態になったのか?
簡単に言えば、"働き続ける"スキルが足りなかったからだと思います。

働くことは、その就職した先に必要なスキルを身に付けていれば、可能です。
上記の生徒たちも、仕事で必要なスキルを持っていたから就職することができたのでしょう。
だけれど、働き続けるには、仕事に必要なスキルを持っているだけでは難しい。

働き続けるには、職場以外でのスキルが確立されていることが大事です。
例えば、「規則正しい生活リズム」「自分の体調を把握し、調整できること」「栄養の取れる食事」「通勤」「身だしなみ」「退勤後、週末の過ごし方」「生活費、貯金等の金銭管理」などなど。
これらの職場以外での生活スキルがしっかり確立されていないと、仕事へも悪い影響を与えますし、仕事自体が続けられなくなります。
ある意味、職場以外のスキルが乏しいために、働き続けられないことがあるとも言えます。

本来なら幼児期から高等部卒業するまでに、このような仕事以外のスキルも身に付けておくべきなのですが、どうも日本の特別支援教育を見ると、職業スキルばかりに重点が置かれているような気がします。
とにかく「働くには体力が必要」とランニングをやりますし、高等部になると同時にそれまでと雰囲気がガラッと変わり、作業、作業、作業みたいな。

確かに"働く"スキルは身につきますが、"働き続ける"スキルが弱い気がします。
これでは、せっかく一般就労できても、すぐに退職してしまい、結局、福祉のお世話になる。
福祉を使うこと自体は悪いことではありませんが、前にもブログで書いたように福祉資源が限られているので、一般就労できるくらいの人がどんどん利用し始めると、本当に必要な人たちが使えなくなるという事態が起きてしまいます。

また、本人たちの気持ちの中にも「退職してしまった」というマイナスな出来事として刻まれてしまいます。
福祉的な職場を利用したことで、プライドが傷つき、そのまま無気力状態になってしまい、再就職ができなくなった人もいます。
それだけ本人たちのダメージも大きいのだと思います。

意外かもしれませんが、海外の調査では発達障害者の離職理由の80%以上は、上記のような「職業スキル以外の部分での躓き」という結果が出ています。
「職場の人間関係がうまくいかなきゃ」なんていうイメージもありますが、仕事中はそこまで複雑で、多くの会話は行いません。
だいたい決まったパターンの会話が多いです。

また職場では、どれだけ会社に貢献できたかが評価対象になりますので、多少変わったところや至らないところがあったとしても、仕事をきちっと行い、会社に貢献している人は仕事を辞めさせられません。
つまり、職場以外で問題があり、そのため、仕事の質に影響を及ぼせば、会社としても雇い続けられなくなりますし、本人自身も仕事を続ける気力、体力がなくなってしまいます。

高等部の進路担当のある先生が嘆いていました。
「全部尻拭いは俺かよ」と。
就職させることは高等部からでもできるかもしれませんが、働き続けるには幼児期からの教育が大切です。
せっかく一般就労できるくらいの力を持った若者たちなのですから、彼らの力が長く企業や地域、社会で活かされるよう、そして彼らが充実した人生を歩めるよう、幼いときから将来を見据えた教育、支援を行ってほしいと思います。

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