「その当時、そんな道はなかった」

親御さんの多くは、「支援を受けることが、この子の成長と自立と生活のためにつながる」というところから出発されるように感じます。
親御さんご自身が経験してこなかった世界です。
知識を集めるところから始めなければなりません。
子ども時代にはなかった概念、サービス、選択肢なのですから、自分以外の“専門家”が必要で、どうにかしてくれる、助けてくれると思うのが自然だといえます。


この出発点は、皆さん、同じですが、徐々にそれぞれの道へと分かれていかれます。


まずは、そのまま突き進まれる方。
私はよく「支援の量と、お子さんの成長と自立と生活の質は比例するわけではない」と言っていますが、「いろんな支援を、より多く受けさせることが、この子の幸せになる」と思い、信じ続けられている方たちがいます。
今日は療育機関に行って、明日は病院に行き、支援ミーティングをやって、夜は余暇活動の準備で、週末は親の会、学習会…。
「我が子のためになんでもやりたい」という想いとエネルギーに共感いたしますが、家族全体が疲れて見えることが少なくありません。


また、お子さんが親御さんの想いほど伸びていない、むしろ、こんがらがっているということもあります。
その理由は、端的に言えば、子どもが見えていないから。
子どもの成長と状態を見て、その時々で取捨選択をしなければならないのにも関わらず、あれもこれもと集めることに終始ししてしまった結果、必要のあるものもないものもごちゃまぜ状態になり、子ども自身がこんがらがってしまっている。
支援者は、親御さんはお客様であり、いっぱい利用してくれることが有難いですから、「頑張ってますね、お母さん」「その想い、行動力に、私達の方が頭が下がります」なんておべんちゃらを言いますが、親御さんにそれを真に受けてしまう状況があり、真に受けて育て直す発達のヌケをお持ちなのだと思われます。
いつしか、我が子のために頑張っている親御さんが、頑張っている自分のためにいる親御さんに変わっているなんてこともあります。


支援に対し、疑問が芽生えてくると、分かれ道が出てきます。
このまま支援を受け続けても、希望していた将来に近づいていけない。
または、もう無理かもしれない、そもそもが無理だったかもしれない。
疑問が無念な思いと結びついてしまうと、その無念さが別の果てしない夢へと誘います。
「変わるのは、子ども達ではなく、社会の方なんだ」
発達の遅れ、障害を指摘されて一番に啓発活動に向かう親御さんは、ほとんどいません。
一生懸命、良い支援を、より良い成長を、と頑張ってこられた親御さんが、途中から啓発活動へとのめりこみ始める姿も見てきました。
どう考えても、社会を変えるより、我が子を変える方が確実な方法です。


支援の限界を悟ったとき、啓発には向かわず、「ありのまま」への道に進む方もいます。
「障害なんだから仕方ないんだろ」
特性も、誤学習も、未学習も、不適切な養育も、すべてみんな障害のせい。
そう考えることで、消化できない無念さを宙に浮かしているように見えることもあります。
最初から、親御さん自身に人として問題や課題のある方もいます。
しかし、「障害なんだから」という親としては投げやりな態度に、無念さの反動を感じることがあります。


「とにかく支援を受けることが必要だ」から、そのまま、特別支援の世界に突き進むか、途中で疑問に感じるかが分かれ道。
そして、特別支援に対する疑問から、啓発へと進むか、ありのままへと進むかが分かれ道。
以前は、大雑把に言って「特別支援に染まる」「啓発という現実逃避に向かう」「ありのままを求める」の3つの道で落ち着かれる方がほとんどだったように感じます。
でも、ここ数年で、この3つ以外の新たな道へと進む方が増えてきたと思います。
それが「治す道」です。


すでに成人されている方の親御さんとお話ししたとき、3つの道以外に、今は治る道があることを伝えました。
すると、「そんな道があることを知っていたら、絶対に治る道を選んでました。治る道が一番良いに決まっています」と、ぼろぼろと涙を流されました。
この親御さんは、特別支援の世界に対する疑問を持ちながらも、そのまま突き進んでいかれた方でした。


現在、社会の中で資質を活かし、自分らしく生きている発達のヌケや遅れがあった方達。
その当時、道はなかったけれど、自分の信念の元に子どもを育て、歩まれてきた親御さん達。
そして、全国で優れた実践を行われてきたプロフェッショナルの方達。
そういった方達が一歩ずつ足を下ろしてきた後に、新たな道ができたのだといえます。


狭い特別支援のムラの中のみに居場所を作るのではなく、
社会を変えるという果てしない夢を追うのではなく、
「ありのまま」を自分にも、他人にも、社会にも強要するのではなく、
発達のヌケや遅れを育て直し、治しやすいところから治していく道。
新しくできた道の存在を知り、そのあとを歩く人が増えていけば、道は固くなり、広くなっていくはずです。
私は、治る道を進もうとする人とともに、歩んでいこうと思いますし、子育てが始まったばかりの親御さん達に、純粋な親心のままで良い道があることを伝えていきたいと考えています。

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