関わってきた人の数が多くなれば、言葉が重くなる

学生時代、大学院の先輩が「私達は障害児教育のエリートなんだ」と言っていました。
障害児教育という専攻の課があり、そこで学べて、その免許、しかも1種免許が取れる大学で学んでいる。
だから、私達は障害児教育におけるエリートであり、リードしていかなければならないんだ。


「社会人経験がなく、狭い世界に籠っていると、人は妄想の中で都合の良い世界を作り上げるものなんだな~」
そのとき、私は思いました。
こういった生活は4年間で十分で、一日も早く社会に出たかった私は、他人とは違った職場を選び、そこでしかない実践と経験をしようと考えました。


相談支援をやっている人で、「なんか具体性がないな」「的のずれた発言しかできないな」と思うと、直接的な支援をやったことがない人だったり、限られた経験しかない人だったりします。
どんなに良いことを言っていたとしても、実践経験のなさは、その言葉の軽さとなって伝わってきます。


学生時代の院生のように、あたかも自分が特別支援を背負っているみたいな上から発言する人には、「今まで、何名くらいの方の支援、教育に携わってきましたか?」と言って、伸びた御鼻を折らせて頂くこともあります。
学校の先生だったとしても、担任し、直接関わる子どもの人数は、1年間で数名程度です。
ですから、20名、30名に対する教育の経験のみで、発言されている場合があります。
とても高い位置からご発言されているなと思った先生に訊いてみると、「普通級で3名の子の担任をしたことがある」という方に驚いたこともあります。


素晴らしい実践家の方は、やはりその数が違います。
特に発達障害と言われている方たちといいますか、人と関わる仕事をしている人は、どれだけ多くの方達と関わったかが問われます。
特別支援教育の先生は、仕事の性質上、何百人もの子ども達と直接関わることは難しいですが、その中でも重みを感じる発言ができる先生というのは、学校以外の場所でも、障害を持った人と関わっている場合が多いと感じます。
学校の中のみであるとか、施設の中のみであるとか、限られた場所で、限られた人としか関わっていない人からは、なかなか素晴らしい実践家は生まれないと思います。


親御さんに「どういった支援者が良い支援者と言えるか?」と質問されることがあります。
良い支援者を一言で表現することは難しく、本人によっても違いますので、なんとも言えませんが、次のようなお話はします。
「10名の手術をしたことのある医師と、100名の手術をしたことのある医師、どちらに手術してほしいでしょうか?」
その支援者のセンス、腕、考え方というのもありますが、関わった人の数が少ない支援者というのは、引き出しが少ない。
1名しか関わったことがなければ、その1名がその人の中の発達障害者になり、特別支援になる。
親御さんもそうですが、1名を深く知ることができますが、それだけでは職業人としての支援者にはなれません。


親御さんは、我が子1名を誰よりも深く知ることができれば、良いのだと思います。
しかし、我が子が将来、どのような成長を遂げ、大人になるか、人生を歩むかは、実際にそのときにならなければわかりません。
ですから、いろんな人と関わったことのある支援者を上手に利用する。
そのためにも、より多くの人と関わったことのある支援者を求めるのが良いのです。


私は、下は幼稚園に入る前のお子さんから、上は50代の方まで、幅広い人達と直接かかわる機会がありました。
そういった関わりの中で常に大事にしてきたことは、その人の“物語”をしっかり見て、記憶していくことです。
どれだけ自分の中にその人の物語を入れられるか、それが次に出会う人のためになる。
そう信じてきました。
私が直接関わる人同士がつながることはありませんが、その人の辿ってきた物語が誰かの物語とつながることはあります。


本人やご家族に、私が過去に出会ってきた方のお話をすることがあります。
そして、その物語が、本人の成長や意欲、家族の希望や目標としてつながっていくことがあります。
ですから、どれだけの人と関わってきたのかは重要だと思います。


優れた実践家は、圧倒的に関わってきた人の数が違います。
各地域に、素晴らしい実践家と呼ばれている人達がいると思いますが、その人がどういった仕事をしてきたのか、それこそ、その支援者の物語を知ることが、良い支援者、耳を傾けるべき支援者かどうかを教えてくれると思います。
お勉強すれば、誰でも素晴らしいアドバイスの一つや二つはできます。
でも、その言葉の重みが違うのです。
その重みを感じられるようになることが大事なのです。


ちなみに私は、1000名の方と直接関われて、やっと一人前になれると思っています。
まだ道半ばです(;´∀`)

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